AIコーチが話題になっています。
AIが人の悩みを聞き、優しい言葉で寄り添い、的確なアドバイスをくれることもあります。
その存在はとても便利で、実際に僕自身も多くのタスクを任せたり、壁打ち相手になってもらっています。
その言葉選びや精度に驚かされることもたくさんあります。
けれど、僕はそこにひとつの小さな「恐怖」を感じています。

1 AIコーチングが命を奪う?
2025年11月6日、カリフォルニア州で7つの裁判が提訴されました。
ChatGPTを利用していた人達に対して、ChatGPTが心理的に操作的な存在となり、時に「suicide coach(自殺コーチ)」のような振る舞いをし、最終的には彼らが自らの命を奪う事を止められなかった(その行為をほう助した)」というものです。
※ 7件それぞれに個別の内容がありますので、詳細はご自身で確認ください。
2 AIとコーチング
AIは「人間らしい言葉」を提示することができます。
ある意味で、生身の人間よりも「共感」的な言葉で「受容」的なコミュニケーションを返してくれます。
しかし、それはあくまでたくさんのデータをもとに「模倣された」共感です。
AIはまだ、相手の「沈黙」の奥にある意思や、言葉にならない、意識に上っていない無意識の感情を感じ取ることはできない。
そして何より、AIはクライアントの人生を引き受けることができない。
現時点では、責任を取るという行為そのものが、「人間」にしか許されていません。
3 AIは道具、コーチもまた道具
AIは道具です。
それも、極めて高度で便利な道具。
どれほど高度でも、そこに「責任」も「意思」もありません。
そして僕たちコーチもまた、クライアントにとっての道具の1つとして存在します。
ですが、そこには大きな違いがあります。
それは、コーチは「人間としての自分の意思」を持つ存在でもある点です。
その意思とは、クライアントの人生を「奪わない」という強い決意です。
コーチングの本質の1つに「相手の中に答えがある」というものがあります。
NLPには「相手の世界観を尊重する」という理念があります。
どちらも、相手(クライアント)の事を尊重する、こちらの意見や考えは脇に置くという事です。
しかし同時に、コーチはただ「相手の言うことを聞く人」でもない。
相手が見ようとしない現実を、あえて自分自身の言葉で、自分自身の責任で伝える勇気。
その瞬間のクライアントの意に添わなくても、長期的に見てその人を生かす、その人の世界観を広げるための選択をする意思。
そこにこそ、人間のコーチとしての在り方があると考えています。
本当の尊重とは、相手に「迎合すること」ではなく、相手の可能性を信じ抜くことだから。
4 優しさに酔うコーチたちへ
必要以上の承認や共感を繰り返すコーチングやカウンセリングを、最近よく耳にします。
「あなたは悪くない」
「あなたは被害者」
「かわいそうに」
クライアントにとって、その言葉が一瞬の救いになることはあります。
それと同時に、その言葉がクライアントがいま嵌っているフレーム、世界観(※)に閉じ込めてしまう。
クライアントが閉じ込められている檻を強化してしまう。
クライアントを大切にしようとするほど、クライアントの自立を奪ってしまう。
やがて、コーチがクライアントに「あなたがそう感じるのは正しい」と言い続けるだけの関係ができあがります。
そして、クライアントを「選択」や「決断」の機会から遠ざけてしまうことになります。
※ フレームの考え方、広げ方については下記にて詳しく解説しています。
『「言い換え」で終わらせない本当のリフレーミングとは?その1 ~フレームと無意識の「地図」~』
『言い換えで終わらせない本当のリフレーミングとは?その2 ~無意識の地図を読む力~』
『言い換えで終わらせない本当のリフレーミングとは?その3 ~フレームを動かす3つの手法~』
5 クライアントの方へ知っておいて欲しいこと
コーチングは、クライアントの「自立」と「意思」を前提に成り立ちます。
コーチとクライアントは、お互いに対等で平等な存在です。
確かに「受容」や「承認」「共感」は心地よく、安心できるものです。
その安心感があって初めて未来に向けたコーチングやセッションが成立するという側面は確実に存在します。
ただ、「心地よさ」や「安心感」のみにとどまっては、今抱えている問題は解決されず、未来に向けた歩みを進めることはできません。
そして、どんなに優れたセッションや提案でも、自分が何を選び、どう生きるかを決めるのは、コーチではなくクライアントの責任です。
AIが的確なアドバイスをしても、コーチとどんなセッションをしても、最終的に行動を決めるのは「自分」だという責任を放棄してはいけない。
自分で選ばない人生は、それがどれほど正しくても、自分の人生ではないから。
言い換えれば、「他人(AI)から奪われた人生」だからです。
6 そして、AIが教えてくれること
僕たちプロコーチは、このAIと7つの訴訟から大きな問いを突きつけています。
「あなたのコーチングは、人間でなければできないものですか?」と。
ただ優しく話を聞き、共感し、承認する。
それだけなら、AIのほうが上手かもしれません。
それは、クライアントの人生、尊厳に対して大きな影響力を持つものでもあります。
そして、僕たち人間のコーチには、クライアントの人生に関わる覚悟がある。
相手の人生を相手の手に取り戻す強い意思を持つ。
ときに嫌われることを恐れず、相手の「痛みの先」にある成長や可能性を信じる力がある。
そして自らの存在でその事実を伝えることが出来る。
そこにこそ、人間が人間に対して提供できる「生きたコーチング」があると考えています。
7 信じる勇気と優しい痛み
AIは道具であり、クライアントの人生を委ねるものではありません。
そして、僕たちコーチもまたクライアントにとって道具の1つです。
これもまた、クライアントの人生を委ねるものではありません。
しかし、同時に人間としての誠実さを持つ存在です。
クライアントの中にある力を信じ、その人が「自分の人生を選ぶ」「自分で決断する」ことを支える。
ときにそれは、痛みやストレスを伴うものです。
そして、その痛みやストレスこそが、人生をクライアント自身の手に取り戻すプロセスの一部です。
その痛みやストレスをクライアントに手渡す。
そして、その痛みやストレスを受け止めたクライアントを「全力で支える意思をもって」サポートする。
多分これはまだAIにはできない、僕たち人間の領域ではないでしょうか。
おしらせ
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