1 なぜあなたのポジティブな言い換えは長続きしないのか?

~本質は言葉ではなく世界観(地図)の書き換えにある~

多くの人が「リフレーミング」という言葉を耳にしたことがあると思います。

「ネガティブな発言をポジティブな言葉に言い換える」、というように、言葉の「言い換え」として紹介されることも多いこのスキル。

もしくは、「たった一言で相手の見方を変えてしまう魔法のようなスキル」

確かに、その説明はわかりやすいかもしれません。

けれど、僕はずっと感じてきました。

「本当のリフレーミングは、そんな単純で簡単なものではない」と。

確かに「ポジティブな言葉への言い換え」は相手の気分を一時的に変える(良くしてくれる)かもしれません。

しかし実際に長期的にクライアントのサポートをしている方は経験があると思いますが、その人はすぐに元の世界に引き寄せられてしまうという事がよく起こります。

・リフレーミングの効果がすぐ薄れてしまうという現象は、なぜ起こってしまうのか?
・そもそも、相手に長期的な変化を促すリフレーミングは可能なのか?
・できるとすれば、どういうリフレーミングをすればいいのか?

このシリーズでは、コーチングの根幹にある「リフレーミングの本質」を3回にわたり紐解いていきます。

今回はその第1部として「リフレーミング」本質的な定義について解説します。

2 地図は「領土」ではない

僕のコーチングの根本には、NLPの基本前提である「地図は領土ではない」という考え方があります。

「領土」とは、ありのままの世界、つまり真実そのものを指します。

それに対して「地図」とは、その本当の世界(=領土)の中から、無意識的に自分にとって必要だとか、大切だと判断し、それを自分の都合のいいように変換した情報のみを書き込んだものを「地図」と言います。

当たり前のことですが、どんな情報が大切か、その人にとって都合のいい情報とはどんなものかは人によって違っています。

そのため、この地図は人それぞれ全く異なり、大半の人はこの自分なりの地図を「世界そのもの=領土」だと認識しながら生活をしています。
(「地図は領土ではない」の詳しい解説は こちら )

クライアントの悩みの大半は、この「地図」と「領土」の違い、つまり自分の認知の枠組みが現実とずれていることから生まれています。

本質的なリフレーミングとは、クライアントの言葉を変えることではなく、この地図そのものに光を当て、新しい情報を書き加えたり、地図の大きさや尺度そのものを再構成していくことと言えます。

そういう意味では、僕がセッションで扱うリフレーミングは、「言葉を言い換える」ことで相手の気分をポジティブに変えることは目的としていません。

「相手の世界観(地図)そのものに目を向けさせ、相手の成長や目的達成に必要な修正を加えていくプロセス全体の構造」が僕が提供しているリフレーミングの正体です。

3 クライアントの「地図」に深く寄り添う関わり方

前述の通り、僕のリフレーミングは、「相手の地図そのもの」にアプローチするプロセスです。

たとえば、あるクライアントが「上司に認められない」と悩んでいるとします。

表面的には「上司との関係」に見えるけれど、その人の「地図」の中には「認められない=自分に価値がない」という構造があるかもしれません。

その上司の視点で見れば、そもそも「認めていないという事実は存在しない」かもしれません。

この「構造」や「視点」が変わらない限り、いくら「ポジティブに考えよう」としても、無意識の地図は現状維持を続けることになります。

その結果、その地図の中で思考しているクライアントさんは、結局は同じ思考パターンを繰り返し、同じ結論、同じ反応を出し続けます。

だからこそ、本質的なリフレーミングつまり相手の地図へのアプローチが必要となりますが、そのためにはまず相手の地図を深く理解することが前提になります。

相手の言葉の奥にある信念、価値観、その人の地図の土台にあるたくさんの経験そのもの。

その人が何を「真実」として生きてきたのかを、丁寧に感じ取っていく。

言い換えれば、その人のこれまでの人生全てへのリスペクトと健全な好奇心をもって全力で知ろうとする時間

それができて初めて、たったひとつの問いや言葉が、その人が見ている・入り込んでいる世界そのものを変えるきっかけになります。
そうやって初めてリフレーミングは、「たった一言で相手の見方を変えてしまう魔法のスキル」として機能し始めます。

逆に言えば、その前提を整えることが出来きなければ「たった一言で相手の見方を変える」ことはできません。

4 「一言で相手の世界を変える」リフレーミングの具体例

僕のクライアントであるコーチ(Aさん)が、「コーチングの指導者に注意されるけど、どうしてもクライアントに自分の提案をしてしまう」と悩んでいました。

僕はAさんが常にクライアントに真剣に向き合い、自分の全てを使ってクライアントと関わろうとしていることをそれまでのセッションの中で把握していました。

そして、そのためにたくさんのリソースを身に付け、ブラッシュアップし続けていることも。
僕はそんなAさんに対する深いリスペクトとともに、ある1つの問いを投げかけました。

「Aさんのクライアントさんは、そのセッションをどう感じているんですか?」

Aさんは少し考えたあと、「クライアントさんは喜んでくれているし、私の提案から話が進んだり、クライアントさんの内省が深まったりしている気がします。そういえば事後アンケートでも、高評価をいただくことが多いです。」と答えました。

「じゃあ、Aさんや指導者の方にとってはともかく、少なくともクライアントさんにとっては良い時間だったということでしょうか。」

その瞬間、Aさんの表情がふっと変わりました。それまで「提案してはいけない」という「コーチングのあるべき姿」というフレームに縛られていた視点が、「クライアントにとって価値のある時間をつくる」という新しいフレーム(地図)に一瞬で変わったのだと推察されます。

相手の世界観を理解しているからこそ、たった一つの問い、たった一言がその世界観に届く。影響を及ぼす。

これが、僕の言うリフレーミングです。

単なる言葉の言い換えではない「相手の地図が自然に、当たり前のように揺らぐ瞬間」。

そして自らが変化していく過程。

僕はそんな場面を何度も目撃してきました。

そして、その瞬間を生み出すためには、言葉のテクニックではなく相手の世界観を正しく深く共有できる「関わり方」が非常に重要になると考えています。

こう考えると、僕のコーチングは「コーチとクライアントが相互に深く理解しあいながら、クライアントの根幹的なリフレーミングを促す時間」と言えるかもしれません。

5 まとめ

今回は、リフレーミングを「無意識の地図」書き換えとして捉えた上で、「なぜ表面的な言い換えが機能しないのか」と「一言リフレーミングの魔法の裏側」を説明してきました。

次回は、この「無意識の地図」を読む力の本質と、その鍛え方をお伝えします。