前回から3部にわたり「本当のリフレーミング」について、僕の私見をまとめています。
第1部では、リフレーミングとは単なる「言い換え」ではなく、「クライアントの無意識のフレームが変わる瞬間を生み出すプロセス」であることをお伝えしました。

今回はその核心にある、「無意識の地図を読む力」について掘り下げていきます。

1 なぜ「地図を読む力」がリフレーミングの鍵となるのか

詳しくは前回の『「言い換え」で終わらせない本当のリフレーミングとは?その1 ~フレームと無意識の「地図」~』で説明していますが、クライアントの悩みの多くは、彼らが信じている「地図」と実際に生きている「領土(現実)」の間に生じたズレから生まれます。

このズレを調整し、成長に向かう新しい視点を取り戻すには、

まず「その人がどんな地図を真実として生きているのか」
その構造を理解しなければなりません。

この「地図を読む力」こそ、
僕が実践するリフレーミングの出発点です。

2 無意識の地図を読むとはどういうことか

「地図を読む」とは、単に相手の話をよく聞くということではありません。

それは、クライアントの言葉の中に潜む「構造(プログラム)」と、その構造を支える土台(信念・価値観)を見抜くこと。
つまり、「その人が世界をどんなレンズで見ているのか」を見極める力です。

(1)言葉の構造を見抜く

クライアントが発する言葉は、無意識の地図の断片が外に出てきたものです。

たとえば、

「私はいつも上司に認められない」

この一文の中には、次のような構造が隠れています。

一般化のフレーム:「いつも」「すべて」といった表現で、限定的な体験を全体化している。

省略のフレーム:「誰に」「どんな場面で」という具体が抜けている。

歪曲のフレーム:出来事と感情のあいだに飛躍がある。

コーチがこの構造を読み取れると、
「この人は認められるor認められないという軸で世界を受け止めているのかもしれない」
という視点が見えてきます。

ここで重要なのは、「言葉そのものよりも、その言葉が生まれる理由」を観察することです。

(2)地図の土台にある「信念」や「価値観」に触れる

構造のさらに下には、その人の地図全体を支える「土台」があります。

たとえば、「私はいつも上司に認められない」という言葉の下には
「認められない=価値がない」という信念。
あるいは、「他人から認められることこそが大切だ」という価値観。

といった土台が見えてきます。

こうした土台を丁寧に見抜いていくと、クライアントがどんな法則で世界を把握しているのかが見えてきます。

コーチの役割は、相手の過去や語りの中に一貫して流れる「信念のパターン」「価値観の順序」を感じ取り、その人が真実だと思っている世界を追体験すること。

この追体験なしに、リフレーミングは決して起こりません。

3 無意識の地図を読む力を鍛える3つの習慣

(1) 自分の地図を完全に脇に置く

最初の一歩は、コーチ自身が「自分もオリジナルの地図を持っていること」を自覚し、その「自分の地図を一旦閉じること」です。

人は、自分の経験や信念の中で他人を見ようとします。
しかし、そのままではクライアントの世界を「自分の地図に無理やり縛り付けて」見ている状態です。

セッション中に必要なのは、
「この人の世界では、この言葉はどういう意味を持っているのか?」
という、純粋な好奇心。

評価も分析も一旦、横に置く。
その瞬間から、相手の地図の輪郭が見え始めます。

(2) パターンを観察する

クライアントの語る内容をそれぞれのエピソード単位で聞くのではなく、それらに共通して流れる思考・感情・行動のリズムに意識を向けながら話を聞いていきます。

・いつも同じ種類の人間関係でつまずく

・新しい挑戦を始めると体調を崩す

・成果を出しても自己否定が残る

これらの繰り返しの中に、
「無意識に入り込んでいる世界」が描かれています。
そこに気づければ、「どこへ問いを投げかけるか」

つまり、「どこを照らせば、どこを刺激すれば地図が変わるか」が見えてきます。

(3)質問の意図を精査する

地図を読むための質問は、
「何が起こったか」だけではなく、「それによってその人がどうなったか」を探る質問です。

例として、

事実確認の質問:「そのとき上司に何と言われたのですか?」

地図を尋ねる質問:「上司にその言葉を言われたことで、あなたの中で何がおきたのですか?」

後者の問いは、出来事の上ではなく、奥にある地図へとクライアントの意識を導きます。
その瞬間、クライアントの無意識に静かな揺らぎが生まれる。
それこそがリフレーミングのスタートラインです。

4 地図を読むという「関わり方」

「地図を読む力」は、単なるテクニックではありません。
それは、「相手の存在そのものに敬意を払う姿勢」です。

この姿勢を持たないコーチは、クライアントの言葉の端々に潜む「世界観の構造」を感じ取り、たった一つの言葉で、静かに地図を揺らすことは絶対にできません。

逆に言えば、「相手の存在そのものに敬意を払う姿勢」をもつコーチとの関りは、クライアントの目に、今までとは違う世界を映すことができます。

5 次回予告

今回は、リフレーミングの出発点としての「無意識の地図を読む力」について解説しました。

次回の第3部では、
この「地図を読む力」を前提に、
実際にフレームを扱うリフレーミングの技術について解説していきます。