こんにちは。Genius Rushの笹原です。

コーチとして活動していると、「クライアントを変えられた」「人生が変わった」といった成功体験が語られる機会は少なくありません。

もちろん、それらはとても喜ばしい出来事です。

でも、今日はあえて、僕が「何もできなかった」と認めざるをえなかった、あるクライアントとの話を書きます。

1 ある「優秀な」クライアント

その方は、とても優秀な方でした。

社会的地位も高く、大きな責任を担う立場で活躍されています。

物事を論理的に整理する力があり、「こうすれば上手くいく」という自分なりの勝ちパターンを持っている。

そして、その勝ちパターンを実際に実践できる人でもありました。

だからこそ、多くの成果を出し、多くの人から信頼されてきたのだと思います。

しかし、その方には一つだけ、長年抱え続けている苦しみがありました。

自分の想定とは違う反応が返ってきたとき。

自分の思いどおりにコントロールできない状況になったとき。

それまで機能していた「上手くやる自分」が揺らぎ始めます。

そして、その奥にある怒りや悲しみ、不安や戸惑いといった感情に気付いてしまう。

でも、その感情を表現することは良くない。

見せてはいけない。
他人にぶつけてはいけない。

そんな信念が、その方の中には強くありました。

本人も言っていました。

「鎧を脱がなければいけないことは分かっている。」
でも、脱げない。

頭では理解している。
それでも、身体が拒否する。

そんな状態でした。

2 圧倒的な無力感

僕は、その鎧を一緒に下ろせるのではないかと思っていました。
そのために、クライアントの同意も取って、何度も対話を重ねました。
さまざまな角度から問い掛け、関わり方も変えました。

でも、最後までその認知を緩めることはできませんでした。

だから僕は、最終的にその方に伝えました。

「僕には、あなたのその認知を緩めることができませんでした。これ以上、何をすればお役に立てるのか分かりません。申し訳ありません。」

プロとして、とても悔しかったです。

僕にもっと才能があれば。
もっと違う関わり方ができたのではないか。
そんな思いが何度も頭をよぎりました。

でも、「できたこと」にするわけにはいきません。
「できなかったこと」は、「できなかった。」

もう、その事実しかありませんでした。

3 クライアントから投げかけられた言葉

すると、その方は少し考えて、こう言ってくださいました。

「笹原さんにも申し訳ない。たくさんの時間とリソースを割いてもらったのに。」

そして、続けて、こんな提案をしてくださいました。

「もしよければ、次からはコーチングではなく、ただ話すという経験をさせてもらえませんか。」

正直、予想もしていない言葉でした。

僕はコーチとしては期待に応えられなかった。
それなのに、「また話したい」と言ってくださったのです。

それ以来、その方とは今でも定期的にお話ししています。

ただし、それはもう「コーチング」ではありません。
課題を解決する時間でも、何かを変えるための時間でもありません。

一人の友人として、ただ話をする時間です。

仕事のこと。
日々の出来事。
時には、他愛もない昔ばなし。

「何かしなければならない」という前提を手放した時間だからこそ、生まれる関係もあるのだと、その方から教えていただきました。

4 「できません」と言えることも、プロの矜持

世の中には、「誰でも変えられる」と言わんばかりの発信もあります。
もちろん、そういう場合もあります。
でも、僕は常にそうだとは思いません。

コーチにも得意・不得意があります。

相性もあります。

クライアントのタイミングもあります。

そして、その人が長年築いてきた「勝ちパターン」は、ときに人生を支えてきた大切なものでもあります。

だからこそ、それを手放すことは簡単ではありません。

万能なコーチはいません。
常に準備が整ったクライアントもいません。

だから僕は、できないことは「できない」と言います。

それは、自分やNLP・コーチングを過小評価しているからではありません。

クライアントに対して、自分自身に対して、ただ誠実でありたいからです。

5 僕にとってのセッションの意義

コーチとしては、この人の役には立てなかったのかもしれません。

その悔しさは、今でも残っています。

でももし、僕という存在が、この人の人生の中で少しでも意味のある存在だったのだとしたら。

「また話したい」と思ってもらえる相手でいられたのだとしたら。

コーチとして望んでいた形ではなかったかもしれません。

それでも、一人の人間として、その人の人生に何らかの存在価値があったのだとしたら、それはとてもありがたいことです。

もしかしたら、僕のセッションの本当の意義は、誰かを変えることだけではないのかもしれません。

人と人として信頼関係を築き、その人が安心して「ただ話せる場所」であること。

それもまた、僕が大切にしたいセッションの価値なのだと思います。

そして、こういうことに気付かせてくれるクライアントに恵まれていることが、僕のセッションの価値を証明してくれているのかもしれません。

※ 「鎧」については こちらの記事 もご覧ください。

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