先日、企業にコーチングを広めているコーチの方から、「NLPは組織にどう活用できるのか?」という趣旨の問いをいただきました。
NLP(神経言語プログラミング)というと、個人のメンタルや目標達成のためのものというイメージが強いかもしれません。 しかし実は、人が集まる「組織」という集合体においてこそ、その真価を発揮する強力なツールになります。
今回は、僕が組織支援をする際によく使うNLPの視点やスキルを、いくつかのポイントに絞ってご紹介します。
1 問題を特定する力
現実世界では、組織内で様々な問題が発生します。
「 納期が間に合わない」「クライアントとトラブルになった」「社内の人間関係が悪い」「社長が社員から嫌われている」などなど。
しかし、このような「問題」が発生していると認識はしていても、実際に「何が」発生していて、「いつから、どのタイミングで」「誰にとって」「どんな問題として」起きているのかを明確に把握している組織やマネージャーは、実はあまり多くありません。
NLPでは「メタモデル」という問いの技術を使います。
これは、不完全に伝達された情報を、限りなく「リアル(事実)」に近づけていくための言語モデルです。
この解像度が上がるだけで、問題解決のスピードと的確さは劇的に変わります。
2 相手の癖に合わせる力
人は色んな癖を持っています。その1つに「好む言葉の癖」があります。
見た目で分かりやすい癖であればいいのですが、この「言葉の癖」は、よほどの言語センスがある人を除いては、一定のロジックと訓練を積まない限り、見抜いたり狙ってコミュニケーションに利用することは困難です。
NLPには「メタプログラム」という、無意識の「言葉の癖」を見抜き、コミュニケーションに活用するためのモデルが存在します。
これを実装することで、相手のモチベーションを自然に引き出したり、組織の心理的安全性を高めることが期待できます。
3 具体vs抽象 を行き来する力
仕事ができる人は「具体」と「抽象」の行き来が上手いと言われます。
NLPには「チャンクサイズ」という概念があります。
情報の大きさ、あるいは抽象度といった意味合いです。 自分の思考や言葉のチャンクサイズを把握し、それを柔軟にコントロールする技術(チャンクコントロール)を学ぶことが出来ます。
意外と気づきませんが、クライアントとのすれ違いや、上司と部下のコミュニケーションエラーは、このチャンクサイズのズレによることが非常に多いです。
これに気付いて調整できる人が組織に一人いるだけで、ストレスなく、スムーズな意思疎通と情報伝達が可能になります。
4 多角的な視点
NLPには「パーセプチャルポジション(知覚位置)」という概念があります。
色々な視点から事実を見つめ直す、という考え方です。
具体的には、以下の3つの位置から物事を捉えます。
- 第1のポジション = 自分自身の位置
- 第2のポジション = 相手の位置(交渉相手、上司または部下など)
- 第3のポジション = メタポジション(客観的な第三者の位置)
これも、仕事ができる人の必須スキルである「多角的視点」を養うのに、極めて実践的で効果的なフレームワークです。
5 気づく力
上記4つに限らず、組織内で活用できるNLPはたくさんありますが、全てのスキルを使う際に必要になる能力が「気づく力」です。
相手の変化、組織の変化、自分自身の変化。 明確な変化ではないけれど、何か感じる違和感。 そこに誰よりも速く、センシティブに気づく能力です。
その違和感の原因を客観的な事実から探り、問題を特定し、ステークホルダーの癖に合わせて、自分の思考や表現の抽象度を自在にコントロールし、多角的な視点から解決策を探る。 NLPの視点やスキルを正しく手に入れることで、組織はこのように進んでいけるようになります。
6 しかし、ここまでで見落とされているもの
ここまで、5つのNLPスキルをご紹介しました。
メタモデルで問題を特定し、メタプログラムで相手の言葉の癖を読み、チャンクサイズで抽象度を調整し、複数のポジションから物事を見つめ、そして全てを支える気づく力を磨く。
これらは確かに強力なツールでありスキルです。
ただ、実はここまでの説明だけでは、NLP本当の価値は伝わっていません。
なぜなら、私が先日あるコーチの方と対話した中で、組織内の課題に関するこんなケースが出てきたからです。
その方は企業コーチングの現場で、ニューロロジカルレベルのズレから関係が悪化している2つの部署を見ていました。
第三者の立場から、メタモデルで事実を整理し、複数のポジションから状況を分析して、本来なら解決策が見えるはずです。
しかし、現実は違いました。
「でも…!」
関係が悪化している当事者達は、状況を受け入れる姿勢がない。
むしろ変わる気がない。
そして、その結論は
「相手が変わらないのではなく、変わらないことで『何かを守ろうとしている』のではないか」
という事でした。
それはメンバー個人の「何か」かもしれないし、部署や組織の「何か」かもしれない。
そこを見極めて、共有しない限り、本当の意味での組織連携は発生しません。
7 「意識的に使う」ことの本当の意味
こらは組織・個人に関わらず、支援をすることを生業にしている人にとって非常に重要なポイントです。
なぜなら、ここから先が、NLPの真の活用と単なるテクニック適用の分かれ道だからです。
NLPの5つのスキルは、確かに誰でも学べます。
研修講座に出れば問いの型を習えますし、パターンを暗記することも、本を読んで概念を理解することもできるでしょう。
最も手っ取り早いのは、AIに聞いてみることです。
間違いなく、僕よりも「詳しい」です。
しかし、それだけでは現場は変わりません。
その理由は、NLPのこの一行に集約されています。
「人は、持てる限りのリソースを使って最善を尽くしている。
すべての行動は肯定的意図によって起きている。」(『NLPの前提』より)
つまり、先ほどのコーチが見ていた「変わらない相手」も、実はその人なりの戦略で、その人なりの最善を尽くしていたのです。
変わらないことで、何かを必死に守ろうとしていた。
メタモデルで問題の解像度を高めることはできます。
ですが、その情報をどう扱うか。
誰の肯定的意図を尊重するか。
相手の「行動」は否定しつつも、その人の「アイデンティティ」や、より根底にある「願望(欲望)」は尊重できるか。
それは、テクニックではなく、コーチ自身の「世界観」や「人間観」の問題です。

NLPを「意識的に使う」とは、これらのスキルを、こうした哲学的な前提のもとに統合して、本当の意味で、相手(の本当の願望や希望)に合わせて使うという事です。
NLPの視点やスキルを、自分の姿勢や世界観にまで統合できれば、そういう人が組織に1人でもいれば。もう1人でも増えれば。
経営者が、その右腕が、マネージャーが、メンバーがそれをインストールできれば。
その組織はしなやかに、そして力強く進んでいけるようになる。
だからこそ、NLPは「意識的に使いこなしている人」から学ぶ価値があるのだと、僕は思っています。
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