前回(『優しさ」の裏に潜む罠 ~その「受容」と「共感」は誰のため?~』)に引き続き、AIと人間のコーチングについて考えていきます。

AIが驚くほど速いスピードで広がり、
「もうコーチングもAIで良いのでは?」という声を聞くことが増えました。
その感覚はAIを活用している僕自身もよくわかります。
効率や利便性の視点から見れば、「AIが代替できる領域」は確かに存在するからです。
ただ、僕自身の意見としてはコーチングの本質は、そもそも便利さとは縁がないのではないかと感じています。
私たちが扱っているのは「成果」ではなく、その人が長年触れずにきた「痛み」、整理しきれずに沈殿した「感情」、途切れたまま放置されたその人の「経験」です。
そして、それらから重なり合って出来上がっている、その人だけが持つ「世界観(地図)」です。
確かにAIは人間同士の「会話」「言葉」を真似することができます。
しかし、まだ踏み込めない「領域」がある。
今日は、その核心に触れます。

1 痛みと向き合うことから逃げない関係

AIはいくらでも耳障りの良い、受容的で共感的な優しい言葉を返せます。
ただしその優しさは、
「痛みを見ないままにする」
「対峙すべき現実から逃れる」
ための優しさになってしまうことがある。
「そのままでいいですよ」と言うのは簡単です。
でもその一言が、本来抜け出したいはずの現状にクライアントを縛りつけることもある
本当のコーチングは、クライアントが避けてきたその「痛み」に誠実に触れます。
それは時としてクライアントにとってもきついし、コーチにとっても気楽にできることではありません。
AIはこの「体験としての重さ」を抱えられない。
「沈黙の圧力」にこめられたクライアントの無意識的メッセージをキャッチできない。
痛みの重量を肩で受け止める感覚。
痛みをそのままの痛みとして共有する関係性。
ここは、現在のテクノロジーがではまだ入れない領域ではないでしょうか。

2 変化は「技術」ではなく「覚悟」から生まれる

多くの人は勘違いしています。
変化は「スキル」や「プロセス」だけの結果ではなく、そこに「覚悟」が乗った時に生まれます。
そして覚悟は、人と人のあいだの「空気」が生み出すもの。
覚悟に至るプロセスには「揺らぎ」があります。
・逃げたい気持ち。
・わかってほしい願い。
・失敗への恐れ。
・期待と不安のせめぎあい。
そんな「リアルな揺れ」があるからこそ、覚悟は立ち上がる。
今のAIには揺れがない。
そして、クライアントの言葉以外の部分に現れる揺れに気付けない。
たとえばAI、はクライアントの声の微妙な震えや視線の変化、一瞬の筋肉の硬直に瞬時に、そしてクライアントにとってフラットと受け止められる反応することはほぼ不可能です。
揺れない存在、揺れに気付けない存在は、揺らぎの後にある覚悟を促せない。
そして僕たち人間のコーチは、
この「揺れ」を怖がらず、面倒がらず、投げ出さず、ただ一緒に抱え、共に進む覚悟を持つ。
この覚悟がクライアントとシンクロしたとき、クライアントの内側に安心と勇気が同時に生まれます。

3 「矜持を持つ」という行為は、人間にしかできない

AIはどれほど高度になっても、自分の選択とクライアントに対する責任感を感じることはできません。
しかしコーチングでは、コーチの一言がクライアントの人生に影響することもあります。
クライアントとコーチとの信頼関係が深ければ深いほど、その可能性は指数関数的に高まります。
「それ、見ないふりしてますね」
「その行動は素晴らしいですね」
そんなコーチの何気ないたった一言が、クライアントの人生を世界観ごと動かす可能性がある
この「言葉の重さ」「自分の存在の大きさ」を自覚した上での行為は、責任感なしには成立しません。
責任感があるから、そこから発される言葉は時に鋭く、時に温かく、時に慎重になる。
責任感のない優しさは、ただのノイズであり、バグ(想定しない、望ましくない結果)を引き起こすものです。
人間のコーチの価値は、「責任感」というこの一点だけでも揺らぎません。
そしてそれは、僕たちプロコーチが絶対に忘れてはいけないプロとしての、コーチとしての「矜持」です。

4 変化の瞬間は、「相手の無意識がコーチの覚悟に触れたとき」に起きる

人は「気づき」があるからすぐに変わるのではない。
気づきはきっかけや変化の必要条件であって、変化のトリガーそのものではない。
人が変わろうと心から思えるのは、無意識が「もう逃げられない何か」「もう逃げたくない何か」に触れた瞬間です。
その「逃げられなさ」「逃げたくなさ」を生むのが、コーチが「自らの揺らぎ」を認めながら、クライアントと共ににそこに立っているという事実。
クライアントの揺らぎを丸ごと受け止める覚悟をもって、クライアントと共にある事実。
痛みを軽く扱わず、
耳障りのいい言葉で逃がさず、
視線を逸らさず、
ただそこに覚悟と責任感を持って存在し続ける
AIはまだそんな「存在の重さ」を持てません。
存在の重さが、クライアントの無意識に届き、クライアントを動かすのです。

5 AI時代に求められるのは、「便利さ」とは真逆のコーチ

AIが発達すればするほど、「人は便利だけでは変わらない」という現実が際立ちます。
いまのところ、
人は痛みに向き合い、
覚悟を決め、
責任ある関係性の中で変わります。
つまりこれからのコーチが持つべきは、
最低限のコーチングスキル、コミュニケーションスキルは当然として、
さらに
・痛みを一緒に抱える力
・逃げずに立ち続ける覚悟
・言葉の責任を引き受ける姿勢
この3つです。
そしてこれは、まだAIが触れられない領域ではないでしょうか。

6 最後に

AIがどれだけ発達しても、人が人と向き合う営みの価値は消えません。
むしろAIの進化によって、「人間にしかできないこと」の輪郭はよりますます鮮明になっていく。
AIに出来ることはAIにまかせる。
人間にしか出来ないことは人間が引き受ける。
AIネイティブが当たり前になった未来に、僕たちコーチはどこに存在していればいいのか。
どんな存在であるべきなのか。
AIへのヘイトでも、AIへの盲信でも、単なる感情論でもなく、
その痛みを伴う問いに冷静に、そして本気で向き合うのはいつなのか。

おしらせ

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